なぜサラリーマンは辛いのか,そして投資は楽しいのかについて考えてきましたが,『投資の楽しみとは,新しいことを試してみて,予想外の結果を受け入れること』に尽きると考えるようになりました。アーリーリタイヤを夢見て10年になろうとしていますが,結局のところ,自分の判断で自由に新しいことを試せる環境こそが私の望みです。
こういった判断に至ったのは,最近になっていくつかの書籍を読み,人間のものの考え方や感じ方への理解が深まったからでした。(#読書の楽しみとも言えます)
参考書籍
- 『トレーダーの生理学』(ジョン・コーツ著)
- 『仕事は楽しいかね?』(デイル・ドーテン著)
- 『ホーム・デポ 驚異の成長物語』(バーニー・マーカス著)
- 『石油の帝国—エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー』(スティーブ・コール著)
『トレーダーの生理学』(ジョン・コーツ著)には,リスクを取って大儲けしたときや,大損害を被って深刻なストレスを抱えたときのトレーダーの体内でどのようなホルモンが放出され,それが思考や感情や行動にどういう影響を与えるのかが書かれています。
スポーツの実力は,身体能力だけではなく精神面のタフネスに強く依存している(#「心技体」)と言われます。それと表裏一体で,投資という知的行為も頭脳だけではなく,体内のホルモンバランスに強く依存しており,安定して良い投資成績を上げ続けるには頭だけ使っててもだめだということを思い知らされました。
ホルモン
面白かったのは,ドーパミンというホルモンの特徴です。ドーパミンは快楽を感じさせてくれるホルモンですが,ドーパミンの分泌量は「思いがけない報償」が得られたときに増加するそうです。
意外なことに,”期待通りに”大きな報償を得られたとしてもドーパミンは徐々に減っていきます。これはいかに面白いゲームでもだんだんとマンネリに陥り退屈するとか,いかにうまい料理でも飽きて楽しく感じなくなるのと似ています。
ドーパミンは”ポジティブサプライズ”を快楽に変換してくれると言い換えることもできるでしょう。
仕事は楽しいかね?
ちょっと話がそれますが,『仕事は楽しいかね?』(デイル・ドーテン著)には,大富豪マックスが,うだつの上がらないサラリーマンである「私」にどうやれば日々を(あるいは仕事を)楽しみつつ,成功を収めることが出来るのか・・・について講義をしてくれます。
『仕事は楽しいかね?』と聞かれれば,私の答えは当然「ノー!」です。アーリーリタイヤを目指す方は満場一致でそうでしょう。
そこで,なぜ「君は仕事を楽しめないのか?」の部分にメスを入れてくるのがマックス(大富豪)のうまいところ。
マックスが言うには,一般に言われる成功哲学本のセオリーは間違っているとのことです。目標を定めて,プランを立てて,実行する,という誰もがやっていることを真似しても成功も出来ないし楽しむことも出来ないから今すぐやめろと,成功哲学本の教えに「×印」を付けてきます。
過去の成功者を数多く見てきたマックスからすると,成功とは偶然の積み重ねであり,その偶然というチャンスを自分のものにするための方法として,「目標を立てずに,毎日新しいことを遊び感覚でやってみろ」と言います。(※具体例として,スリーエム(MMM)のポストイットなどの例が書かれていますが,偶然引き起こす心構え,偶然を見落とさない心構えの重要さを説いています。)
新しいことを試すのが成功の秘訣なのはなぜか?
それは「試してみることに失敗はない」という言葉に凝縮されていますが,新しいことを試すと,人は必ず何かを獲得することができるからです。投資の世界で言うところのプラスサムですね。
試してみてうまくいかなくても振り出しに戻るのではなく,教訓を得たり,プロセスを楽しむことができたりするというわけです。必ず失うものよりも得るものが多いのだから,試してみろと。
試してみるとドーパミンが分泌される=楽しめる
話を元に戻すと,試してみて「うまくいく」あるいは「うまくいかない」という成り行きを見守る行為は,それ自体がドーパミンを分泌する最良の方法です。要は試すことは生理的に楽しいわけです。
「変化し続けよ」ホーム・デポ創業者 バーニー・マーカス
ここで試してみるということを,自ら変化すると言い換えると,ホームデポ(HD)のバーニー・マーカスの名言「流通業に安泰と言うことはあり得ない。変化し続けなければつぶれる。毎朝,目をしっかり開けていなければ今日誰が自分を滅ぼすだろうかと考えよ。」(『ホーム・デポ 驚異の成長物語』)に酷似します。
バーニーのこの言葉は悲壮な決意が漂いますが,実際のバーニーのキャリアもまさに地獄から天国へといったキャリアで,試行錯誤の繰り返しでした。
もともとウォルマート(WMT)のサム・ウォルトンなどと同じく,バーニーも根っからの商売人でホームセンター ハンディ・ダンの経営で辣腕を振るっていましたが,なんとオーナーと衝突して(妬まれてに近い)裸一貫で解雇されます。
この「おまえはクビだ」事件をきっかけに,以前から暖めていた巨大なワンストップ・ホームセンターであるホーム・デポ構想を実現させるチャンスが舞い込んできたわけです。
絶望の淵でチャンスをつかむとはこのことですが,チャンスをつかめたのはバーニーの商人としての実力が本物だったこと(#サム・ウォルトンクラスだと思います),バーニーの周りの共同経営者が優秀だったこと,そして絶えず自ら変化する心がけを忘れず,「ホームデポを訪れたカスタマーを満足させずに帰してはならない。自ら進んで失敗する=リスクを取る店長・スタッフこそがホームデポの鑑」という精神を全従業員に吹き込んだからです。
この物語はスターバックスのハワード・シュルツの話と同じぐらい面白いのでぜひ『ホーム・デポ 驚異の成長物語』で読んでみてください。
(※『石油の帝国—エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー』に描かれているエクソン(XOM)の軍隊のような規律ある企業文化は,リベラルな分権主義のホーム・デポ(HD)とは大違いです。エクソンは中央集権的であり,武器を持たない軍隊と言っても決して言いすぎではありません。リスクは徹底的に管理し排除せよ,ひとたび安全対策が企業のミッションとなったからには従業員はかすり傷一つ負ってはならない,など。企業文化とはまさに人格とも言うべき特徴なので,投資家としては押さえておくべきです。)
投資を楽しむ
投資の世界というのも値動きが小さい退屈な相場よりも,ボラティリティの高い相場の方が楽しいものですし,また,パターンの読めるボックス相場よりも先行きの読めない相場の方が楽しいと感じている方も多いと思います。
私もここは自分で疑問でした。なぜストレスを感じるのに,楽しいのか?それはドーパミンやテストステロンといったホルモンのなせるわざだったわけです。不確実性は蜜の味というわけです。
また投資法についても,私は頻繁にスタンスを変更しています。(#永久投資家として,投資を引退することはないですが,投資への考え方は常に変えています。)たとえば,バフェット流のファンダメンタル重視の投資から,テンプルトン流のバーゲンハンティング,オニール流のCANSLIMグロース株投資から,シーゲル流の配当再投資重視まで。
こんなにいろいろ試したいという気持ちが湧くのは,投資の成績そのものをマネジメントしたいと言う気持ちよりも,投資のプロセスで分泌されるドーパミンを楽しみたいと感じているからですね。
さらにありがたいことに『仕事は楽しいかね』で,こうした「新しいことを試すのに失敗はない」という新鮮なアドバイスをもらったことで,相場を楽しむことへの罪悪感(リスクを最小化してリターンを最大化することだけが投資家の目的ではない)が薄れました。
変化のないところに成長はないので,新しい投資術を学び,新しい銘柄を調べ,新しい技術を応用し,相場を楽しみたいと思います。