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Channel: 永久投資家の米国株投資物語
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リストラの功罪

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2016年は企業業績が頭打ちとなり大規模なリストラが相次いでいます。リストラは従業員にとってはライフプランが大きく左右されるため忌み嫌われますが,企業の存続には不可欠な必要悪です。それは世界経済が生き物だからです。

製品にライフサイクルがあるように,テクノロジーにもライフサイクルがあります。テクノロジーが旧くなれば,従業員を再教育して新しい技術を身につけさせるというのも一つですが,多くおケースではそんな時間・コストはかけていられません。したがって,時流に合わせて投資家がポートフォリオを入れ替えるのと同じく,企業経営者も柔軟に「人材スキルのポートフォリオ」を入れ替える必要があります。特にハイテクでは顕著です。

もちろん,スキルの入れ替えが目的ではないリストラも存在します。それは市況の影響で事業運営規模を柔軟に増減させる必要のあるコモディティ関連です。エネルギー,穀物,鉱物資源,資本財などの分野は好不況の波が大きく,投資家で言うところの「人材のポジションサイズを縮小・拡大」させることが欠かせません。たとえば,エクソン(現エクソン・モービル(XOM))は90年代の原油価格低迷期に人員の40%を削減しました。

これらは経営目線で言うとポジティブなリストラです。

  1. テクノロジーライフサイクルに合わせた「人材スキルのポートフォリオ」入れ替え目的
  2. 市況変動に合わせた「人材のポジションサイズを縮小・拡大」する目的

大量解雇を断行できる経営者は優秀

ウォーレン・バフェットは大量解雇を好んでいると書きましたが,それはバフェットが投資先を選ぶ場合にReturn On Equity,すなわち投資した1ドルをどれだけ有効に活用できるか,を重視しているからです。株主への手紙を見ても耳にたこができるほど繰り返し書かれています。

バフェット持ち株で言うとクラフト・ハインツ(KHC)の合併による事業統合と人員整理,またIBM(IBM)の米国内人員整理などが代表例ですが,株主の投じた1ドルを無駄にしないことが最重要です。(告発書「倒れゆく巨象――IBMはなぜ凋落したのか」ではIBMはボロクソに叩かれていますが,私はIBMのたゆまぬ株主還元の姿勢については高く評価しています。)

我々が夏に向けて贅肉を落としたりタンニングしたりするのと同じく,企業も決算に向けて『贅肉』(収益力の低い事業)をそぎ落としてもらわなければなりません。長く苦しいダイエットの結果得られるシェイプアップされた美しいプロポーションの財務諸表は惚れ惚れするものです。例)アップル(AAPL),マイクロソフト(MSFT),ナイキ(NKE),メドトロニック(MDT)など。下図はマイクロソフト。財務もCFも成長性も完璧。

リストラしないと東芝になる

投資家にとって最悪なのは東芝のような企業です。自分の所属する事業整理を免れたいがゆえに,利益の出ている事業部から赤字事業部に数字を付け替えるなど,経営者・社員が一丸となって好き放題の悪事を繰り返していました。これは東芝の経営陣にとっての優先順位が,①自分の保身(決算説明会を乗り切りたい),②従業員の保身(リストラは避けたい),③株主の利益,④顧客の利益となってしまっていたためです。株主も顧客も顧みられませんでした。

 

東芝はフラッシュメモリー事業(とキヤノンの高値で売却した医療機器事業)以外,赤字事業部ばかり抱えています。本来は原子力事業や家電事業などの赤字を正確に株主に公開して,人員整理に取り組むべきでしたが,ずるずると粉飾を続けて赤字事業の根本治療をしなかった結果,2016年になって糖尿病に苦しむことになります。今年に入り大勢の東芝社員が今頃になってリストラ対象となり,従業員を守ることもできませんでした。

リストラは適切なタイミングで断行すれば善,遅れれば悪

以上のことから言えるのは,リストラはタイミングが重要だと言うことです。リストラには大量の費用・引当金が必要です。従業員の退職引当金や事業売却に伴う損金などを埋め合わせられるだけの「体力のある時期」にリストラは行うべきです。

東芝の例で言うと,事業整理が遅れた背景には,すでに赤字が蔓延するとともに自己資本が大きく毀損されて,リストラを断行するだけの「バランスシート上の体力」が無かったことも背景にあります。体力が無くなれば治療のオプションが減ってしまう典型例です。また,社長の出身事業部はメンツにかけても赤字にはできないといった,日本特有の社内政治も遠因にありました。

肥満治療と同じで事業のダイエットは早めに適切な手法やるほど効果的です。すでに糖尿病を発症してからでは遅いのです。

2016年のリストラ銘柄

CNBC レイオフに日々のリストラニュースが掲載されています。リストラのチェック項目は

  • 規模が適切か
    ※十分な人数を解雇しているか?
  • 解雇する目的は明確か
    ※単に株主からの責任追及逃れでやっていないか?
  • 解雇する意志が十分か
    ※不採算部門に聖域を儲けずリストラしているか?(社長,CEOの出身事業部など)
  • タイミングが適切か
    ※遅すぎないか?

などです。いかに列挙するのは2016年の大量解雇銘柄ですが,ざっと本ブログで取り上げている優良企業が軒並み揃っています。こうした経営方針を投資家は高く評価する傾向が続いており,さらなる株高のために市場をリードする勢いでリストラを進めて欲しいと思います。

シスコ・システムズ(CSCO)

目的:人材ポートフォリオ入れ替え

規模:シスコは全世界で従業員の20%に相当する14,000名の解雇を発表しました。現在は70,000名の社員がいますが,56,000名に減少することになります。

大量解雇の目的はクラウドやアプリケーションを開発できるソフトウェア・エンジニアに人材を入れ替えるためのようです。こういうリストラはIBMと同じく目的が明確で,規模も十分,経営意志を評価できます。

マイクロソフト(MSFT)

規模:全社員の4%に相当する4,700名の解雇を予定しています。

ヒューレット・パッカード(HPQ)

規模:Fiscal2016末までに3,000名の解雇を予定しています。

ナショナル・オイルウェル・バルコ(NOV)

目的:人材のポジションサイズ縮小(原油安のため)

規模:17,850名

ウォルマート(WMT)

目的:人材のポジションサイズ縮小(不採算店舗閉鎖のため)

規模:16,000名

シュルンベルジェ(SLB)

目的:人材のポジションサイズ縮小(原油安のため)

規模:12,500名

インテル(INTC)

目的:人材のポジションサイズ縮小(PC市場縮小中。事業再編のため)

規模:12,000名

ハリバートン(HAL)

目的:人材のポジションサイズ縮小(原油安のため)

規模:10,200名

デル

目的:人材のポジションサイズ縮小(PC市場縮小中。事業再編のため)

規模:10,000名

シェブロン(CVX)

目的:人材のポジションサイズ縮小(原油安のため)

規模:7,500名

ダウ(DOW)・デュポン(DD)

目的:人材のポジションサイズ縮小(合併による人員整理のため)

規模:6,000名

 


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