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Channel: 永久投資家の米国株投資物語
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人工知能ビジネス

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ここ最近,人工知能(AI)のニュースを目にする機会が増えました。人工知能がビジネスとして成立するのか,将来的に社会の中でどういう位置づけになるのかについて考えてみたいと思います。

人工知能を事業の柱と位置づけている企業には,アルファベット(GOOGL,GOOG),マイクロソフト(MSFT),IBM(IBM)などがあります。現時点ではAIとは言ってもまだコグニティブ・コンピューティングと呼ばれる「弱いAI(自意識を持たず,人間のような幅広い認知能力もない)」に留まっていますが,徐々に各社の狙いが見えてきたので考察していきましょう。

まとめ

現時点での私なりの理解は以下の通りです。

  1. マイクロソフトはビジネスモデルが明確に用意されており,AIはおまけに過ぎない。マネタイズ戦略が唯一明確な企業である。
  2. IBMはシーズとしてのAI技術を先に開発してしまったが,ビジネスモデルが用意されていない。しかし,AIへの期待度と本気度は三社中最も高く,投資の規模は最大だと考えられる。
  3. アルファベットは長期ビジョンとして「デバイスを意識しなくても,自在に好きなサービスを利用できる」未来を作ろうとしており,そのサービス提供の手段としてAIを位置づけている。ビジネスモデルもまだ用意されていない。

マネタイズ戦略はマイクロソフトが明確

ざっと各社のIRを調べた限り,収益化戦略が唯一明確だと感じたのはマイクロソフトでした。

マイクロソフト(MSFT)のコグニティブ・サービシズでは21種類のAPIを提供しており,大きく分けてVision(画像解析),Speech(自然言語認識),Language(翻訳),Knowledge(文献・統計解析),Search(検索)の5つの分野に対応しています。これらはテキスト・画像・音声というデジタルデータを”役立つ情報”に変換してくれるツールの扱いです。これらのAPIが他社と比較して優れているのかどうかは私には分かりませんが,マイクロソフトの目指すゴールは明確です。

マイクロソフトにとっての最重要顧客は昔も今もサードパーティーの開発者であり,開発者の生活圏となるプラットフォームを作り上げることに心血を注いでいます。これらのAPI提供の意図も開発者の囲い込みが狙いです。Visual Studioという開発環境を提供することでWindowsを普及させることに成功してきましたが,今回の狙いはAIサービスを開発できる環境を提供することでAzureを普及させることでしょう。

コグニティブ・サービシズのAPIはAzureのクラウドサービス上で動くため,このサービスを利用したい顧客は自然とAzureクラウド上の「ストレージ+計算処理能力+各種コグニティブAPI」の3つのサービスを利用することになります。それぞれについては広く浅く課金すればよいのです。とにかく重要なのは開発者を他社に奪われないこと。

開発者にとっての開発環境というのは,乗り換えコストが極めて高いものの一つです。一度,開発したものを他社に移植するというのは,よほどのことがない限りリソースの無駄が発生するので,なかなか実行に移すのは難しいです。それゆえ,マイクロソフトはクラウド立ち上げの”今”の時期に,開発者をAzureに取り込み,今後10年〜20年にわたる長期的地位を盤石なものにしようとしています。

マネタイズ戦略としては,『Azureというエコシステムに開発者を囲い込んで長期的に稼ぐ』ということになると思います。まさにマイクロソフトの勝利の方程式ですね。

msft-cognitive-services

IBMは技術はあるが,マネタイズ戦略がない?

現在,AIとして最も知名度が高いのはIBMワトソンではないでしょうか。ワトソン・ヘルス(医療)やワトソン・ウェザー(天気)分野などでニュースを目にした方も多いと思います。最近では,医師でさえ見落とすような稀な疾患をワトソンが正確に診断したというニュースもありました。

IBMの人工知能「Watson」が、特殊な白血病患者の病名を10分ほどで見抜き、その生命を救ったと東京医科学研究所が発表しました。患者は当初、医師に急性骨髄性白血病と診断され抗癌剤治も受けていたものの、まったく効果が現れていませんでした。東京医科学研究所は「AIが命を救った国内初の事例ではないか」とのこと。参照:Endgadget

また,ワトソン・ヘルスの提携先を見ると慢性疾患患者へのアドバイス(インシュリン投与のタイミング指導など)やフィットネス(アスリートの栄養指導など),病院での診断(症例の少ないケースを発見)が主な提携分野となっています。こうした提携先の企業一覧を見ているとさぞビジネス的に成功しているように感じるかも知れません。

企業名 分野
アンダー・アーマー(UA) フィットネス
トライアックス・テクノロジーズ フィットネス
スペア5 フィットネス
全米心臓病協会(AHA) 心臓病
全米糖尿病協会(ADA) 糖尿病
ニュートリノ 栄養管理
メドトロニック(MDT) 心臓病
テバ・ファーマシューティカルズ(TEVA) 喘息などの慢性疾患
ノボ・ノルディスク(NVO) 糖尿病
マニパル病院
ボストン小児病院 腎臓病

ですが,残念なことにワトソン自体の受注額が全く明らかにされていません。これらのプレスリリースとなった”提携”ですが,学会発表により研究者へのプレゼンスを高める目的なのか,無償提携によるワトソンの試運転なのか,本気で製品開発や販売協力までを見据えた戦略的提携なのかというのが分からないのです。

IBMがワトソンに本気で入れ込んでいるのは「ワトソン・ヘルス部門だけで(買収先企業の人員含めて)5,000人以上の人員を割いている」というプレスリリースからも明らかです。一つのソフトウェア部門に5,000人を投じると言えば,日本の大企業でもごく一握りあるかないかですし,まさに社運を背負っていると言っても過言ではありません。(ソフトウェア企業においては工場などの生産設備はないので,投資の大半は人件費です。人員をどれだけ割いているかで会社の方向性が見えてきます。)

こうした熱意からするとIBMはワトソンを技術のアドバルーン(宣伝)目的で開発しているのではなく,本気で収益の柱にしたいようだというのが読み取れます。

ただし,マイクロソフトのような開発者を囲い込みたいという意図も感じられず,どちらかというとワトソンの活用法をあれこれ試行錯誤しているようにしか見えません。技術のシーズとしてすごい製品を作ってしまったが,収益化するためのビジネスモデルを構築できていない状態ではないでしょうか?

次回以降の決算でこうした疑問点が明らかのなるのか,興味が尽きません。

アルファベットはビジョンはあるが,サービス・ビジネスモデルはない

アルファベットCEOサンダー・ピチャイの”AIファースト”レターが有名になりました。世界最大の時価総額を誇るソフトウェア企業がAIを最重要視していると宣言したわけで,それも当然だと思います。

その中で謳われた次の一文が示唆に富んでいます。

「Looking to the future, the next big step will be for the very concept of the “device” to fade away. Over time, the computer itself—whatever its form factor—will be an intelligent assistant helping you through your day. We will move from mobile first to an AI first world.」(デバイスという概念が消えて行き,コンピューター自体がどのような形であれ,あなたを賢くアシストしてくれるようになるだろう。アルファベットはモバイル・ファーストからAIファーストに移行してゆく。)

イメージとしてはiOSだろうと,アンドロイドだろうと,Windowsだろうとどのデバイス上でもグーグルの検索エンジンで検索するように,意図せずともアルファベット社の開発するAIをバックグラウンドで利用できるようにするという意思の表明でしょう。

具体的なことは何も述べていないですが,すでにグーグルの音声認識技術・自然言語解析技術は非常に高く,また画像認識処理も世界のトップランナーになっていることが知られています。

現在,アルファベットの収益の柱は,検索ページと相性の良い広告宣伝が大半を占めていますが,もし音声検索で直接サービスを呼び出せる時代が来れば,「検索ページ」という視覚的な概念が無くなるかもしれません。当然,広告は「表示」できなくなり収益を失います。

このように,AIファーストを敢えて訴えなければならなかったのも,アルファベットが検索エンジン一本足状態でビジネスモデルとしては案外もろいというのを,CEOのピチャイ自身がよく理解しており,来るべき未来に備える必要があることを啓示したと考えられます。

アルファベットの技術シーズは多岐にわたっており,あっと驚くようなサービスとの融合が見られるかも知れないので,こちらは長期的に待ってみたいと思います。

世の中の変化は予想よりも遅い

最後に,私はAIの将来性には自信を持っていますが,一方でその普及速度についてはIT企業が考えるよりはるかに遅いと予想しています。

IBMは2006年に「IBMが考える、“今後5年間に生活を一変させる5つのイノベーション」を発表しました。それから10年経った2016年現在で振り返ってみると,IBMの予想は方向性は正しいですが,変化の速度は実に遅いものです。以下の5つのイノベーションはどれもまだ夢のような話です。(辛うじて,2番目の携帯電話の進化については予想に近いと言えます。)

2006年12月15日

IBMが考える、“今後5年間に生活を一変させる5つのイノベーション”

IBM(本社:米国ニューヨーク州アーモンク、会長:サミュエル・J・パルミサーノ、NYSE:IBM)は、今後の5年間に人々の働き方、生き方、遊び方を一変させる可能性を持った5つのイノベーションを「IBM® Next Five in Five」としてまとめました。ここにまとめたイノベーションは、私たちの生活を一変させると思われる市場や社会のトレンドやニーズを基にしただけでなく、全世界のIBM研究所による新技術に裏づけられたものです。

今後5年間に、私たちの生活は次のように変化することでしょう。

いつでも、どこにいても健康管理
糖尿病や心臓・腎臓・循環器の病気など、慢性疾患を抱えた何百万もの人々が、自身の健康状態を医療の専門家に監視してもらいながら、日常生活を送るようになります。患者自身が身につけたり、家庭に設置されたりしたセンサーを通じて、医療の専門家が、いつでも、患者がどこにいても、患者の健康状態を適切な形で監視し、予防医療を提供することができるというわけです。2012年までには、遠隔操作による医療分野のハードウェアとソフトウェアの進歩が、生活者や企業にとって重要なイノベーションの源泉となるでしょう。

あなたの気持ちをわかってくれる携帯電話
携帯電話や携帯情報端末(PDA)が、ユーザーの居場所(通勤中、オフィスで仕事中、移動中なども)や嗜好を自動的に把握する能力を身につけるでしょう。現在でも、インスタント・メッセージングに用いられている「プレゼンス」技術は、ユーザーがネットワークに接続するとすぐにその位置を特定し、本人識別を行なうことができます。5年後には、あらゆる種類の携帯機器がユーザーの嗜好やニーズを学習し続け、適応していく機能を持つようになります。あなたの携帯電話は、あなたが授業中あるいは会議中であることを知ると、自動的にボイスメールに切り替えてくれます。またお気に入りのピザ・レストランは、あなたが夜遅くに帰宅途中にあると分かれば、持ち帰り用の食事を特別価格で用意し、通知してくれます。

一般的になるリアルタイムの音声翻訳
グローバル化に向けた動きの中で、言葉の違いは考慮すべき問題のひとつですが、対応策も既に出てきています。例えば、IBMの音声技術のイノベーションにより、メディア会社がWeb上の中国語やアラビア語のニュース放送を英語でモニターしたり、旅行者がPDAを利用してメニューを日本語に翻訳したり、医師がスペイン語で患者とコミュニケーションをとったり、ということが可能になりつつあります。これからは、リアルタイム翻訳の技術やサービスが、携帯電話、携帯機器、自動車に組み込まれるようになるでしょう。これらのサービスが、ビジネスの現場や社会のすみずみに浸透し、グローバル経済と社会活動における言葉の壁を取り払ってくれるでしょう。

新たな体験を引き起こす3次元インターネット
DARPA、AOL、プロディジーなどの初期の活動がWorld Wide Webへと発展したのと同じように、「Second Life」や「World of Warcraft」など人気の高いオンライン・ゲームをはじめとする没入型のインターネット・サイトが、3次元インターネットへと進化していきます。このような没入型のオンラインの世界では、スーパーマーケット、書店、DVDショップの中を歩いていると、地元にある現実世界の店舗ではめったに見かけないその道の専門家に出会うことになるでしょう。3次元インターネットの世界では、新しいタイプの教育、遠隔医療、消費者体験が可能になり、友人、家族、医師、先生、お気に入りの店などとの付き合い方が変わっていきます。

環境問題、例えば飲料水の供給不足も新技術で解決
政府や企業は、環境への責務の向上にますます目を向けるようになり、水やエネルギーなど確実でコスト効率の高い資源を確保しようとします。環境面におけるニーズへの対応には、情報技術(IT)、材料科学、物理学が貢献していくでしょう。ナノテクノロジー(個々の原子や分子を操作し微小な構造物を新たに形成する技術)は、すでにマイクロプロセッサーに大きな影響を与えていて、パソコンや携帯電話といった電子製品の小型化、改良、価格低下を進める原動力の一つになっています。今後、ナノテクノロジーは水のろ過に利用される見込みで、これが生態学や環境保全を進展させ、世界的に拡大しつつある飲料水の供給不足に役立つだろうと考えられています。このほか、IT、物理学、材料科学が大きな影響を及ぼす分野には、水に関する先進的なモデリングや太陽光発電システムの改良が挙げられます。


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