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Channel: 永久投資家の米国株投資物語
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インテューイティブ・サージカル(ISRG) 企業分析,ヴァーブ・サージカル企業分析

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2分間サマリー

「インテューイティブ・サージカルは泌尿器科,婦人科など向けの手術用ロボットの独占企業である。2016年時点でグロスマージンは70%前後をキープしており市場独占による高い収益力を裏付けている。EPS成長率は10年CAGR9.8%,5年CAGR5.2%と近年は鈍化しつつあり,急成長期から安定成長期に変化しつつある。(フリーCF成長率についても同様)

手術用ロボットの競合は数社あるが価格的にも大差なく製品品質はダ・ヴィンチの方が上回っている。さらに,外科医の間ではダ・ヴィンチはデファクトスタンダードの地位を占めており,ダ・ヴィンチのブランド力は他社を大きく引き離している。現存する競合企業による脅威は小さいと判断できる。日中韓三ヶ国では競合はないに等しく,手術ロボット市場の拡大の恩恵を受けている。

ただし,まだ上市していない競合として,グーグル傘下のヴァーブ・サージカルが野心的な手術支援プラットフォームを開発中であり,機械学習による医師への手術アドバイスを含めた手術ロボットを販売する予定。ダ・ヴィンチよりも大幅に安い製品になる可能性が高い。エビデンスの蓄積などを考慮すれば,普及までには5年〜10年単位の年月がかかると思われるが,インテューイティブ・サージカルに投資している投資家の不安を掻き立てる恐れがある。具体的には投資家の不安心理がPER33倍と高いバリュエーションを正当化できず株価の下落に繋がるかもしれない。

ビジネス上の懸念は,製品の信頼性に関して懸念があり,手術により患者が負傷・死亡した場合,遺族から訴訟を起こされるリスクがある。2015年は92件の訴訟があり$82.4Mil(85億円)の支払いが命じられた。これは一株あたり$2.2(EPSは$15程度なので15%の特別損失に相当。)に相当する。今後も製品が普及すれば訴訟リスクは拡大する可能性があり,一定の損失を見込む必要がある。

2012年以降に自社株買いを行うようになり,3%程度の自社株買い買い入れを実施している。配当は出していない。ネットキャッシュ(現金+短期投資-長期借入金)は一株あたり$40に相当する。約$600の株価に対して8%程度がネットキャッシュ。

ここ5年のEPS成長率5.2%ではバフェット流のリターン水準と見比べて高いとは言えず,無配当企業としてはPER33倍は魅力的なバリュエーションとは言えない。総合的に考えて割高と判断する。テクニカルには200日移動平均線を割り込んでおり短期的な回復は見込めるが,長期投資の対象としては独占的地位だけではなく純利益率の改善(営業費用や販管費などの節減等)や新製品のリリースなどのファンダメンタルを支える材料が欲しい。新たな成長ストーリーが生まれてくれば投資妙味となる可能性あり。」

企業分析

インテューイティブ・サージカル(ISRG)は昨年にも一度企業分析をしておりますが,ファンダメンタル的には当時の分析から大きく変わりはありません。相変わらず市場の独占状況は続いており,盤石の成長企業だと言って問題ないでしょう。

なので,1年前からの差分の情報を更新したいと思います。

インテューイティブ・サージカル(ISRG)は世界最大手の手術用ロボット製造メーカーです。現在のところ,外科手術と言えばダ・ヴィンチ・システムだと言われるぐらいのデファクトスタンダードとなっており『前立腺がんは「ロボット手術」で完治を目指す!』など書籍も多数出版されています。

どういう機械で,医療現場ではどう使われているのかを知りたい方は,こちらの『ロボット手術マニュアル−da Vinci手術を始めるときに読む本』の方が実際の手術現場での写真が多数掲載されており,わかりやすいと思います。従来は回復手術が必要だったのに対し,ダ・ヴィンチでは4本のアームを挿入するだけでよく傷が小さくて済みますし,術後の回復にかかる負担も軽減できるというのが大きな強みです。

実際の手術現場では体液の飛散による汚染や感染などを防ぐためにこのようにビニール袋を被せて使用します。これが製品価格1億〜2億円で,ランニングコストも年間数千万円かかるという代物です。

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市場

まずロボット手術の市場規模ですが,泌尿器科,婦人科,咽頭科,および外科において,全世界で1200万件の手術が行われていますが,そのうちロボット手術は年間65万件にすぎません。これは手術総数からみるとわずか5%にすぎず,まだまだ”ニッチ”なテクノロジーです。

伸び代からするとまだまだ十分に成長余地があることに疑いの余地はありません。

ただしそれだけで楽観的な成長予測をすることはできません。ロボット手術がなぜニッチに留まっているのか,優れた技術であればもっと普及しても良いものなのに,という感想を持つと思いますが,それは価格的に高すぎるということがあります。

病院は慈善団体ではないので,「収支・利益」が何よりも優先されます。手術に降りる保険料には限りがあるのでロボット手術のような付加価値の高い先端医療までカバーはできず,私費負担となることもあります。そうなると支払いを可能なパイ自体限られてしまうという限界があるわけです。

日本でのケースでは,ダ・ヴィンチでの手術への保険適用は2012年に前立腺癌手術,2016年1月に腎臓がん手術へと適用範囲が広がっていますが,まだまだ婦人科の手術への適用は認められていないなど,実際に保険適用されるまでにはタイムラグがあり普及への道のりは一筋縄ではないことがお分かりいただけると覆います。

また,そもそも薬事法ではこうした医療機器を「使って良い」というお墨付きを得るのにもエビデンスの蓄積が必要であり,一部の大病院で実験的に導入されてから数年分の治験が溜まって始めて様々な症例への適用範囲が広がっていくものです。

ロボットを使うことの成功率や事故率などエビデンスの蓄積ペースを考えると,爆発的に普及するというよりはじわじわという感じで安定成長するという見立てが堅実だと思います。

競合

競合1:ヴァーブ・サージカル(Verb Surgical)

2016年1月の時点で話題になっていたのは,競合メーカーとしてジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)とアルファベット(GOOGL)が共同で手術用ロボットを開発するベンチャーを興したというニュースでした。

この新会社名はヴァーブ・サージカルと言い,グーグル側がイニシアチブをとって起業した会社です。

ヴァーブ・サージカルが提案するのは医療支援プラットフォームであり,「機械学習,ロボット手術,様々な計器類,高度な画像可視化,データ分析」を総合的に提供するという野心的なプロジェクトです。皆さんもよくご存知の通り,太字の部分は明らかに”グーグルが”もっとも得意としている分野です。以下に列挙するように”テクノロジーのタネ”をグーグルは多数抱えています。大昔のゼロックスやベル研究所みたいですね。

機械学習        :Google Brain, TensorFlow, DeepMind(アルファ碁などを開発)
ロボット手術:Google Robotics(4本足ロボットなどを開発)
画像可視化    :Google capabilities, Google Glass
データ分析    :Google Cloud

おそらく,ジョンソン・エンド・ジョンソンは,手術用のロボットやディスプレイの開発を下請けするような感じで参画しており,全体的なシステムの構想設計はグーグルからスピンオフした社員が考えていることでしょう。(下請けというと聞こえが悪いですが,ジョンソン・エンド・ジョンソンは自社でイノベーティブなことができなくなったのを数十年前から自覚しており,技術を買収する,あるいは社外と提携するということに積極的です。自社で新たな技術開発はできないと割り切り「金で時間を買う」戦略と思えば悪い話ではないです。名前も売れますし。)

IBMは,ワトソン・ヘルスと呼ばれる医療ビッグデータから診断法を提案するというサービスを始めていますが,ヴァーブ・サージカルのプロジェクトの目指す方向性はIBMとは少し異なり,診断プラスαの医療アシスタンスを提供しようとしています。

ただし,いくら元グーグルの優秀な人材が作った企業だからと言って,ここ15年間手術分野では圧倒的な定評のあるインテューイティブ・サージカル社に直接対抗しても勝ち目はありません。独占された市場に後から参入する新参企業としては差別化要素が重要です。

ヴァーブ・サージカルは,現在のダ・ヴィンチ・システムが極めて高価なシステムであることを意識して,低価格で高い治療効果が得られるというのを差別化ポイントとして挙げています。

医療支援プラットフォーム

グーグルの子会社Verily社CEOのアンドリュー・コンラッド氏は,ダ・ヴィンチのような手作業の延長線上にあるようなロボットは「ロボットではない」と辛辣です。

「ダ・ヴィンチは単に外科医の目と手の延長だ。そんなものはロボットじゃない。ロボットとは本来,あなたにとって助けになるような価値のある情報を伝えてくれるものであり,ときに自動的に何らかの処理を行ってくれるもののはずだ。」

(#高枝切りばさみは便利だがロボットではない,と言っているようなものですね。グーグルにとってのロボットとはもっとインテリジェントで高尚でなくてはならないのです。)

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そして,現在の医療というのは一部の最先端の病院だけに新しい機器が導入され,各国の大都会では医療水準が高くとも,数十キロ離れた地方都市になると医療水準が低いという現状を問題視し,ヴァーブ・サージカルでは「手術を誰でもアクセスできる技術にする」「手術インフォマティクスやツールを提供することでメディカルケアの水準を底上げする」の2点を目標として定めています。

クリステンセンの『破壊的イノベーション』の手本のような目標設定です。

future_of_surgery

お披露目の期日

ヴァーブ・サージカルは言っていることはかなり野心的ですが,まだ全貌は何も明らかになっていません。おそらく2016年末までに関係会社であるグーグル,ジョンソン・エンド・ジョンソンなどに,開発状況が見えるようなプロトタイプをうちうちでお披露目する予定のようです。私たちのような個人投資家は,噂で判断するしかありません。

企業概要(ヴァーブ・サージカル)

投資家目線で,ヴァーブ・サージカルが一体どういう会社かということをおさらいしておきましょう。うまく行けば5年後ぐらいにIPOされるかも知れないのでお楽しみに。

まず,2015年3月27日にグーグルとジョンソン・エンド・ジョンソンの提携が発表されました。具体的な提携内容は,グーグル・ライフサイエンシズ部門とジョンソン傘下の手術ロボット製造部門エシコン(Ethicon)が提携して,ロボット手術システムを開発するというものです。

そのプレスリリースの中で宣言している通り,「手術用機器開発にとどまるのではなく,大量のデータを扱う技術開発を行う」ための提携だとされています。この大量のデータを取り扱うという言葉には,画像処理技術などを駆使しして,今までは高度なスキルを持つ外科医しか見つけられないような小さな腫瘍を見やすく表示すると言ったことも含みます。(# “コンピューティング”を手術に適用するプロジェクトだと考えて良いでしょう。ロボットというのはグーグルという頭脳でできた企業からすれば単なる手先指先にすぎません。)

グーグルは2013年にグーグル・ライフサイエンシズ部門を設立し,分子生物学者のアンドリュー・コンラッド氏が部門長です。その後,グーグル・ライフサイエンシズはVerily社としてスピンオフしています。

そして,満を辞して2015年8月にヴァーブ・サージカルが設立されました。社屋はマウンテンビューのグーグルキャンパスの中です。

CEOはメディカル機器ベンチャーを10社以上設立してきた起業ジャンキーとも言えるスコット・フエネケンス氏です。富士山に6回登ったりとバイタリティーの塊のような人物です。スタートアップとはなにをすべきかを知り尽くし,ベンチャー企業に魂を吹き込むために招かれたということでしょう。

副社長はアボットラボラトリーズ参加の光学機器部門長だったデイブ・スコット氏で,インテューイティブ・サージカルで働いていたこともあり,手術ロボット開発の指揮をとっているのはスコット氏です。

プロジェクトに参加しているメンバー数は約200名で,うち100名はヴァーブ・サージカル社員で,50名はEthicon社(ジョンソン・エンド・ジョンソン傘下),残り50名はVerily社(旧グーグル・ライフサイエンシズ)の社員です。

CEOのフエネケンス氏およびヴァーブ・サージカルが目指すのは,「ボトム・オブ・ザ・ピラミッド」である50億人の人々が手術にアクセスできるようにすることです。上海やブラジリアなど大都市だけ医療水準が高くても意味がない。残された多数の人々にリーズナブルな医療技術を提供することが重要であり,腕利きの医者でなくても手術できるようにアシストするためのテクノロジーを提供するとのこと。

この目標は壮大であり,そのためにはライセンス供与によりヴァーブ・サージカルのプラットフォームを他社が使えるようにするということも想定しているようです。

インテューイティブ・サージカルにとって脅威か?

現在,ヴァーブ・サージカルは写真含めてほとんど何も公開していません。強豪であるインテューイティブ・サージカルに情報が漏れるのを警戒しており,2017年になるまで何も公開されないと思いますが,果たして現在の独占企業インテューイティブ・サージカルにとって競合上脅威となるのでしょうか?

私の見立てでは今後5年ぐらいのスパンでは脅威にはなり得ないと思います。というのも,手術という人の命がかかっている1回限りの医療では,トライアル・アンド・エラーで精度を高めていくと言ったことが出来づらいからです。

すでに日本の大病院含めてダ・ヴィンチは広く普及しており,成功実績は抜群です。医者からすれば,リスクの高い新しいものより,高価であっても実績のある技術を使いたいと思うのが常です。(薬の場合でも同じことが言え,ジェネリックを投与することに躊躇する医者も多いです。)

というわけで,世界中の大病院ではまずインテューイティブ・サージカルの独占状態は続くのではないでしょうか?

では,50億人のボトム・オブ・ザ・ピラミッドに目を向けるとどうかですが,こちらは普及の可能性は大いにあると思います。

なぜならそもそも,1億以上するような高価な手術ロボットは購入することが出来ないので,ヴァーブ・サージカルが一桁安い手術ロボット(ロボットとしては低機能だが,グーグルがバックアップする様々な画像技術や診断技術,手術アシスタンスが使える)が出るとなれば,普及するでしょう。

ヴァーブ・サージカルは手術という機器ではなく,サービスを普及させたいのだとすれば,機器のイニシャルコストは徹底的に抑え,消耗品の交換や手術情報サービスなどのサービスあるいはインフラで収益を上げることを考えているかもしれません。(憶測にすぎないですが。)

イメージとしては,アンドロイド携帯がiOS以外の全ての携帯OS市場を席巻したのと同じような構図を狙っていると言えば分かりやすいでしょうか。現在,iOSのシェアは市場の上位20%であり,iPhoneを買うことのできない残り80%の人々はアンドロイドを使用しており,グーグルの戦略は見事にはまっています。

ただし,これも長期スパンの話であり,目に見えてどこでも使われるようになるのは10年ぐらいの期間を要すると思います。本当に普及すればまさに「手術4.0(Surgery 4.0)」です。

どちらにせよ,手術ロボットによって医療の水準が底上げされるのであれば,私たちにとっても大きなメリットがあるので応援投資対象としてウォッチしたいと思います。すぐにIPOされるほどの成功を収めて欲しいですね。

競合2:トランスエンテリックス(Transenterix)

トランスエンテリックスは手術用ロボットのダ・ヴィンチの安価な代替品を提供しています。

トランスエンテリックスの手術ロボットはALF-Xと呼ばれる機種で,イニシャル費は1.8億円と価格的にはダ・ヴィンチとほぼ同等ですが,ランニングコストがダ・ヴィンチは手術一件あたり$1600かかるのに対し,ALF-Xは$1200です。医療保険の引き下げ圧力が医療機関に重くのしかかっているので,初期の導入費用よりもランニングコストの方が重要とされます。

また,ALF-Xは触覚フィードバック機能が搭載されており,技術的にはここがダ・ヴィンチよりもアドバンテージがあると言えるでしょう。

ただし写真を見る限り,ダ・ヴィンチのコンパクトな設計(本体1台に4本のアームが生えている)に比べて,ALF-Xは単に4台のロボットを並べているだけで決して使いやすそうには見えません。設計的に見劣りするので普通に考えたらダ・ヴィンチを選ぶでしょう。

ダ・ヴィンチは装置1台に全ての機能が盛り込まれています。

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ALF-Xは装置4台がバラバラ。

alf-x

正直,私の目にはALF-Xは魅力的な製品とは写りませんでした。


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